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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)7412号 判決 1965年9月13日

原告

出淵キミ

原告

出淵るい

原告

出淵のぶ子

原告

出淵一

原告一法定代理人親権者母

出淵キミ

右原告四名訴訟代理人

上山太左久

佐久間三弥

被告

神宮利夫

被告

神宮勝利

主文

(1)被告等は、各自原告出淵キミに対し金九五〇、一七〇円、原告出淵るいに対し金一〇〇、〇〇〇円、原告出淵のぶ子、同出淵一に対し各金一、五九七、四九六円を支払え。

(2)原告出淵キミ、同出淵のぶ子、同出淵一のその余の請求を棄却する。

(3)訴訟費用は、これを三分し、その一を原告等の、その余を被告等の各連帯負担とする。

(4)この判決は、第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、「(1)被告等は、各自原告出淵キミに対し金一、八五一、七四六円、原告出淵るいに対し金一〇〇、〇〇〇円、原告出淵のぶ子及び原告出淵一に対し各金二、〇〇四、四二〇円を支払え。(2)訴訟費用は、被告等の連帯負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

一、本件事故の発生

昭和三七年二月二一日午後九時四五分頃、東京都荒川区南千住町二丁目八四番地先路上において、被告利夫運転の軽三輪貨物自動車(以下単に被告車という)が、道路横断中の訴外出淵敏運に衝突し、訴外敏運は、翌二二日右事故に基く頭蓋骨骨折により死亡した。<以下省略>

理由

一、<証拠>を総会すると、請求原因第一項の事実(本件事故の発生とこれによる訴外敏運の死亡)を認定することができ、この認定に反する証拠はない。

二、被告等の責任

(一)  <証拠>によると、被告利夫が本件事故当時無免許で且酩酊して被告車を運転し時速約四五粁で進行中前方注視を怠り、道路前方を左から右に横断中の訴外敏運を約五米の近距離に至るまで気付かず、発見と同時に右に転把して接触を避けようとしたが及ばず、被告車の左前部付近を同人に接触させ本件事故を発生させたものであることを認定することができる。

(二) 被告勝利か、被告車を所有するものであること及び被告利夫の父であることは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると次のような事実を認定することができる。被告勝利は、住居地において経木商を営み、自己所有の被告車を営業のために使用していたこと、被告車の運転は専ら被告利夫の弟実が行い、運転に必要な鍵等は同人が常時これを所持していたこと、被告利夫は、妻及び子供二人を擁して被告勝利とは別に世帯を営み、自らは水道工事店に勤務していたが、しばしば被告勝利に無断で被告車を運転し、道具や材料の運搬等に使用していたこと、しかるに被告勝利は、被告車の保管について特段の配慮をすることがなかつたため、被告利夫は、容易に前記実から鍵を借り受け又はピンで接電する等の方法により、前記のとおりしばしば運転をしていたものであること。右認定に反する証拠はない。してみると、本件事故当日被告利夫が被告勝利に無断で被告車を運転したものであるにせよ、右運行は、前記被告等の身分関係と被告車の保管の状況からすれば主観的にはともかく客観的には被告勝利のための運行といわなければならない。尤も前掲各証拠によると、前記実は、被告利夫の被告車貸与の要求を断る口実として鍵を紛失したと称して鍵を貸さなかつたことがあること及び本件事故当日は被告利夫がピンで接電して被告車を運転したものであることを認めることができるが、右のような事実があるからといつて前記の結論を左右するに足りるものではない。

(三) そうすると被告利夫は、民法第七〇九条また被告勝利は、自賠法三条の各規定に基き、原告等の後記各損害を賠償すべき義務がある。

三、損害

(一)  原告キミの物的損害

<証拠>によると、同原告は、(一)訴外敏運の入院費及び措置料等として金一二、六五〇円(甲第五号証)(二)主として三五日忌の諸費用として金五三、八七八円(甲第九号証の一ないし一五)、(三)葬式費用等として金一八〇、七九八円(甲第八号証の一ないし三七)を支出し、同額の損害を被つたことを認めることができる。

(二)  訴外敏運の得べかりし利益

<証拠>にすると、訴外敏運は、事故当時満四四才(大正六年一〇月二五日生)で従業員四人位を使用して自動車解体業を営み、昭和三六年度の年所得額が金七五九、〇九一円として申告されていることを認め得る。そうすると特段の事情のない限り同訴外人は、四四才の男子の平均余命(厚生省発表の第一〇回生命表によると満四四才の男子の平均余命は二七、三七年である)の範囲において満六〇才までの一六年間は、前記のような業務に従事し、前記のような収入を挙げ得たものと認めるのが相当である。尤も前記原告の本人尋問の結果によると、訴外人が胃潰瘍を患つたことを認め得るが、事故当時は全治していたものと認められるので、前記認定の妨げとなるものではない。ところで訴外敏運の生活費が金一八七、一八六円であるとする原告等の主張<編註、生計費指数を本人一・〇配偶者〇・九、その他の家族各〇・六として算出したもの>は、同訴外人の年令、収入及び家族構成から相当額と認め得るので、前記所得年額から右生活費及び原告等が自ら控除する年税額金六六、五〇〇円を控除した残額金五〇五、四〇五円をもつて同訴外人の得べかりし利益の年額とすべきである。

よつて同訴外人は、本件事故により右金五〇五、四〇五円の一六年分すなわち金八、〇八六、四八〇円の得べかりし利益を喪失したものというべきところ、ホフマン式計算方法(単式)により年五分の割合による中間利息を控除して現在額を算出すると、金四、四九二、四八八円八八銭となることが計算上明らかである。したがつて同訴多人は、本件事故により右金額の損害賠償請求権を取得したものというべきところ、原告等が、同訴外人の相続人の全員であることは、前記甲第一号証によつてこれを認め得るので、各自の相続分にしたがい各三分の一すなわち金一、四九七、四九六円(円位末満四捨五入)宛を相続によつて取得したことが明らかである。

(三)  慰藉料

原告等が本件事故により多大の精神的打撃を受けたであろうことはこれを推認するに難くなく、その損害は、原告等の主張する金額(原告キミが金二〇〇、〇〇〇円、その余の原告等が各金一〇〇、〇〇〇円)を被告等が原告等に支払うことによりようやく慰藉するに足りるものである。

四、そうすると、原告キミは、前項(一)ないし(三)の合計金一、四五〇、一七〇円の損害賠償請求権を取得したものというべきところ、同原告が自賠法に基く責任保険により金五〇〇、〇〇〇円の支払を受けたことは同原告の自認するところであるからこれを控除した金九五〇、一七〇円、また原告るいは前項(三)の金一〇〇、〇〇〇円、原告のぶ子及び同一は前項(二)及び(三)の合計金一、五九七、四九六円の損害賠償請求権を有するものというべきである。

よつて原告等の本訴請求は、被告等に対し、原告キミが金九五〇、一七〇円、原告るいが金一〇〇、〇〇〇円、原告のぶ子及び同一が各金一、五九七、四九六円の支払を求める限度において理由があるから正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項但書、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項の各規定を適用して主文のとおり判決する。(茅沼英一)

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